愛の始まりは自分

美キャリアラボのコラム

愛の始まりは自分    フリーライター 社納葉子

自分なんか、なんの価値もない。そう思ったことが何度あるだろう。昨日まで一緒に遊んでいた友だちから仲間はずれにされた時。通知表に「5」がひとつもなくて、両親が私と目を合わせようとしなかった時。「あの子はねえ」と大人たちが声をひそめて私のことを話していた時。

きわめつけは、とても大切な人に「別れよう」と言われた時だ。初めて私を好きだと言ってくれた人。太ってる、目が細い、毛深い、声が嫌い、不器用、勉強が苦手・・・自分の嫌いなところを並べ立てる私に、「どうしてそんなことを気にするの」と心底不思議そうに言いながら私の手をとり、自分のコートのポケットに入れてくれた。ポケットの中は暖かくて、まるで心の中に私を迎え入れてくれたような気がして、とてもうれしかった。

この人なら、どんな私も好きでいてくれる。

そう思った私は、甘えすぎてしまった。わがままを言っては困らせた。うまくいかないことがあると八つ当たりをした。約束を破っても謝らなかった。本当はとても楽しいのにつまらなさそうな顔をした。電話をくれても出なかった。そのくせ私の電話に出ないと怒った。

さんざん振り回して困らせて、最後にその人は「別れよう」と言った。声はいつものようにやさしかったけど、悲しい目をしていた。

死ぬかと思った。死にたいと思った。眠れなくて、食べられなくて、泣いて泣いて、恨んで恨んで、あんなに減らなかった体重がシューッと減った。

あの人に愛されなくなった私なんか、なんの価値もない。本気でそう思った。

いつ、どうやって立ち直ったのか、もう覚えていない。でも、あれから何十年も私は生きてきた。

もちろん、あの人はいない。違う人と結婚したけど離婚した。今はひとり暮らし。

体重はとっくに元に戻り、シワもシミもできて、ついでに結石なんかもできて夜中に救急車を呼んだこともある。死ぬほど痛い思いをした時、「死にたくない!」と思った。笑っちゃうね。

きっと、あの人がいなくなって大きな穴がドカンと開いた世界で、私は泣きながら悟ったんだと思う。

誰に愛されても愛されなくても、まずは自分で自分を愛するんだ。愛はそこからしか始まらないんだ、と。

私はその時、ようやく自分の人生を自分で歩き始めた。誰かに何をされたとか、言われたとかじゃなくて、「私はどうしたいの? どうなりたいの?」と自分に問いかけながら。

あんなに「あの人なしには生きていけない」と思い詰めたのに、長い間思い出すこともなかった。大好きだった顔も声も、すっかりあいまいだ。

でも最近、時々あの人に心のなかで話しかける。あの時の私に、一番大切なことを教えてくれてありがとう。私は今、幸せです。

【社納葉子さん】
フリーライター。食いしん坊。人物インタビューを中心に、人権問題、職人の技、食にまつわるテーマを多く取材。娘がネイリストになったことから美容にも関心を持つように。「本来の自分を取り戻すツールとしての美容」を考えたいと思っている。

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最近、恋愛に悩んでメイクレッスンにいらっしゃるお客様がとても増えてきました。「私に魅力がないから…私がダメなんです」と多くの方が仰います。自信、無くしちゃいますよね…。でも自分のことを一番好きでいてほしいなあ。それを伝えたくて、葉子さんにコラムをお願いしました。
しんどいわ、と思った時にはまず美味しいおやつを食べて、ちょっと落ち着いたら自分をハグハグしてくださいね♡

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