呪いの解き方、教えます フリーライター 社納葉子
私はずっと自分のことを好きになれなかった。ぽっちゃりした体、片方が二重で片方が一重の目、まあるい鼻、太い二の腕。親も含めて「可愛い」と言われたことはない。言われるとすれば「健康そうなお嬢さん」であった。「可愛い」は、誰かのための言葉だった。
大人になって、人の見た目で判断したり、容姿をあげつらったりするのは差別だと知る。「差別反対!」と言ったが、だからといって自分を好きにはなれなかった。
さらに時が過ぎ、もっと大人になった私に父がこう言った。
「昔の写真を整理していると、葉子の小さい時の写真が出てきたよ。とても可愛いかった。自分の娘はこんなに可愛かったのかと思った。でも私は一度も葉子に可愛いと言ったことがない。自分の子どもに可愛いと言うなんて、親馬鹿でみっともないと思っていた。そして必要以上に厳しくあたった・・・すまなかった」
話している途中から父は涙ぐみ、最後に頭を下げた
私も涙が止まらなくなって困った。困りながら、私の中にいる小さな私が泣いていると思った。ずっと「葉子は可愛いよ」という言葉を待っていた、小さな女の子。
人は何気ない言動で、誰かに呪いをかけてしまうことがある。逆にすばらしい力を発揮できるような魔法をかけることもできる。関係が近いほど、呪いも魔法も強い。
父の「謝罪」の後、私は自分を振り返った。父の言動にずっと傷ついてきたけれど、私自身も自分を大切にしてこなかったのではないか。そして娘にも、かつての父のような態度で接していたのではないか、と。
今、私はすっかり大人になった娘に言葉を惜しまないようにしている。「よく似合うよ」「がんばってるね」「ゆっくり休んでね」「あなたならできるよ」。ことさらに褒めそやすのではない。見て、感じたことをそのまま言葉にすればいい。気持ちをこめて。
自分に対しても同じだ。「私はやっぱりこの色が似合うな」「今日はよくがんばった!」「ちょっと失敗したけど、そんな時もあるよ」。誰かと比べず、自分としっかり向き合って励ます。
呪いは自分で解けることを子どもの私は知らなかった。でも今は解き方を知っている。
夜、化粧水をつけた手のひらで顔を包みこむ。ハンドクリームを一本一本の指になじませる。そしてやさしい気持ちで眠りにつく。
朝、顔を洗って鏡を見ると、呪いがひとつ解けている。指で軽く押さえるように下地クリームを塗ると、パッと顔が明るくなる。そうっと眉を描けば、瞳が輝きだす。指でグラデーションをつけながらアイシャドウを、頬の高いところにチークを、そしてゆっくりと口紅を。
メイクが進むごとに呪いはひとつずつ解けてゆく。新しい呪いもやってくるけど、解き方を知れば恐くない。
メイクはごまかすためじゃない。「だめだめ」と隠していた自分を掘り起こして、「これが私です」と見せるため。
「私なんか」という呪いから自分を解放した時、私たちは自分の本来の姿を知るだろう。呪いから自由になった人が増えれば増えるほど、世界の景色も変わるだろう。
【社納葉子さん】
フリーライター。食いしん坊。人物インタビューを中心に、人権問題、職人の技、食にまつわるテーマを多く取材。娘がネイリストになったことから美容にも関心を持つように。「本来の自分を取り戻すツールとしての美容」を考えたいと思っている。
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葉子さんのコラムはとっても優しい。そして色々なことに気づかされます。色々な雑誌、新聞でコラムを書かれているのでぜひチェックしてくださいね!わたしも葉子さんのように優しいまなざしで物事を見ることができるようになりたいと思っています。
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